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漫画は表現方法のひとつ、と語る楳図氏。では、恐怖漫画とは・・・? 恐怖漫画と芸術との類似性、現実の世界で恐いもの、さらに、生活の軸となっている語学勉強と吉祥寺の暮らしまで、現在の楳図氏について語っていただきました。
“恐い絵”は芸術への入り口
―― なぜ、恐怖漫画家という道に進んだのですか?
何点か理由があります。怖くないとインパクトがない、ウケないといけない、そして他にないジャンルを描かなくてはならない。そう思ってまわりを見渡すと、恐怖というジャンルが当時はまだなかったんです。それで、いろんな条件を寄せ合わせた結果、『あっここだ! 恐怖漫画にしよう!』と思ったんです。ですから、恐怖漫画というのは何かって論理的にはわかっていなくて、ただ感覚的に恐いものを描こうって、この分野を選んだだけなんです。
―― 楳図さんが描く恐い絵というのは、ご自分でも恐いと思うのでしょうか?
ぜんっぜんそんなことないです。怖い絵は描いていて楽しいです(笑)。怖い絵っていうのは絵柄自体が日常性じゃないので。日常をどのようにひんまげて別の意味を感じさせられるのか、ということなんです。偉そうに聞こえるかもしれないけど、恐い絵は芸術の入り口だと思っているんですね。例えて一番わかりやすいのは、ダリ*の絵。僕はダリが好きなんですけど、彼の絵に写実的できれいな海岸の風景画があるんです。けれども、そのなかに、海岸の波の端っこを指でつまんでめくっている描写がある。そこだけで非現実になっちゃうんです。条件として、“非現実的が入っていないと、怖いとは言わない”と、僕の中では決めて描いているんです。非現実が入らない恐いことっていうのは、日常的にいくらでも起きるんです。最近そんな事件がいっぱい起きていますよね。そうすると、漫画を越えていますねとか、参考になりますね、とか言われますが、現実に起きているのは、事件です。ダリの絵のように、波の端をつまんでめくり上げることができますか? まわりがどれだけ現実でも、この一点、できないことが混じったとき、要するにファンタジーになるわけで、恐怖ということになる。めくっているように見せかけているだけだったら、恐怖じゃなくて事件です。現実に起きることはあくまで現実なので、それは恐怖作品とは違うんです。

*サルバドール・ダリ(1904-1989年):シュルレアリスム(超現実主義)のスペイン人画家。
現実で一番恐いもの、それは・・・
―― 非現実な恐い絵と一緒に、楳図さんは人間の心の闇を描いていますよね。
現実の中で一番ホラーに近いのは、心理です。なぜかというと、人間自体は現実なんだけど、心の中で想像していることは、非現実だったりしますよね。そこがホラーなので、ある意味一番怖いのは心理と言える。ただ、漫画を描いたとき、心理描写だけで終わったら、もったいないですよね。せっかく絵柄で好きなようにウソを描けるのだから。たとえば、首と身体がバラバラになって、ワハハと笑っててもいいわけだし。

―― 漫画だから描けると言っても、楳図さんのように次々と作品を生み出すのはなかなかできないのでは?
当時は消費に負けずに生み出しているという、競争だけでしたね。消費に創作が上回っていないと、それは悲惨の方向に行っていたけど・・・。 今の世の中もそうですよね。使うものと補うものがあったら、補うものを十分に蓄えながらやらなくてはいけないのに、行き当たりばったり、成り行きまかせ。これでは破滅の始まりなんです。ウソが真実を上回ったとき、破滅は起きるんです。現実の限度があるはずなのに、それをこんなふうに都合つけたらこうなるだろうって、それはもうバーチャルなんですよね。いくら理由つけても、許容範囲を越えてしまっているのに、何でそれがわからないんでしょうかね。簡単な理屈なのに、それをすっ飛ばしている。電車の脱線事故もそうだし、ホリエモンも、姉歯も、小嶋もそう。情けないですよねぇ。

―― 楳図さんの言葉には、人類の未来への危惧が語られているような気がします。作品も未来を先取りした内容が多いですし・・・。
先を行かないといけないんです。特に僕においては、役目というか。漫画とか小説とかって、読者は予測した内容を期待している部分があるんですね。未来予測しようと思って描いていたつもりはないんですけど、やっているうちに、まわりから指摘いただいて、気づいた、という感じですかね。

―― ストーリーを考えるとき、綿密に下調べとかは・・・・・・。
全然しないです。数字とか社会の仕組みとかで未来予測しているわけでなく、僕の場合はどうやら人間の心理で推し量っているみたいですね。未来の地球が砂漠化するとか、全部ひっくるめて、人間の心理で予測しているんです。この世の中を変えることができるのは人間だけ。そうすると世の中は、こうしたい、という人間の願望で決まるんですよね。単純に、基本的な話の筋道が合っていると、自然と未来予測できているみたいです(笑)。こんなものになりたい、こんなものが欲しい、あんなことがしたいっていう人間の願望が外れなければ、本当に現実となっちゃうことも有り得るわけです。30年、40年先の話でも、漫画だったら何ヶ月かでずるずるずるっと描けちゃいますしね。
吉祥寺くらしの中心に、語学勉強
―― そんな、時代を先取りする楳図さんの住み処(すみか)は吉祥寺ですね。どうして吉祥寺なのでしょう?
吉祥寺は、東京で一番好きな街なんです。ごちゃごちゃと賑やかなところがあって、出し抜けに井の頭公園という自然が、すぐ近く・・・すぐ!(笑)近くにあるというのが気に入っています。うんと離れて公園があるのはよくありますが、賑やかなのと自然がふたつ一緒、というのは吉祥寺ならではのよさ。家のなかにずっと居るのが嫌なので、ぱっと外へよく行きます。なるべく自転車や車を避けて、没頭・・・というか、ぼう〜っと(笑)して歩いていると心地いいんですよね。

―― 吉祥寺で楳図さんに会えることがある、という話を聞いたことがあります。楳図さんの、“ある一日”を教えてもらえますか?
仕事が入っていないときは、朝7時くらいに起きます。それで、ラジオの語学番組を聞くんです。今日は7時25分からフランス語を聞いて、それから英語、8時からスペイン語、そのあと顔を洗って食事して、9時半からイタリア語、そして今日は『猫目小僧』*の主題歌を練習してから(笑)、外へ出ました。公園を一周して、街なかへもぐり込んで、東急デパートの中村屋を見て、もうひとつの店舗のほうがいいかなあと思ったりして、駅ビルの地下にある中村屋へ行き、根菜カリーとミネストローネを食べました。そして午後はドイツ語のラジオを聞かないといけないので、まっすぐ戻ってきました。

*『猫目小僧』:楳図さんの原作を井口昇監督が映画化し、今年公開。主題歌は楳図さんが作詞・作曲。

―― 語学の勉強をそんなにやっていらっしゃるんですか!? それはまた何故?
特に理由はないんですけど、英語くらいはしゃべれないと、と思って。テレビの仕事でイタリアに行ったとき、しゃべりたい言葉を覚えて行ったんですが、イタリアでもどこでも、英語でいいんだとわかったんです。それで戻ってきてから勉強するようになりました。5〜6年前からラジオ番組を録音するようになったけど、最初の頃はとりあえず録音していただけ。ここ数年はちゃんと聞いていますね。英語以外の言葉も始めたのは、高尾の家*で、朝、暇でラジオをつけたら、まとまって他の語学番組もやっていたんです。それでついでだからって、ただ聞き流していた、というのが始まりです。

*楳図さんの別宅。

―― 日々、上達していますか?
レベルたいしたことないんです。全然(笑)。まあ、一番馴染みがあるのは英語とイタリア語ですね。録音したテープを外国へ持っていって、楽しく旅行しながら勉強するのもいいなあと密かに思っていたんですけど、あんな津波やテロもあったりして、『やっぱり日本でラジオ聞くのが一番だねぇ〜。あ〜情けな〜』と思ったり(笑)。

―― 先ほど、お外でカレーを食べてきたとおっしゃっていましたが、外食が多いのですか?
家で食べるのはほとんど朝ごはんだけです。今朝は玄米あずきパンに黒胡麻のペーストを塗って、きなこをかけて(笑)、酢漬けのカブをひとかけら食べました。外ではコーヒーを飲むので、朝は日本茶ですね。昼や夜は買ってきて食べることもありますが、家で食べるより、外が好き。できればみすぼらしくないところで、ゆったりと食べたいです(笑)。やっぱりどうしてもイタリア、フランス系の料理が好きなので、そこへ行っちゃうんですけど、バランスを考えて、そばもうどんも食べますね。明日はどこのお店に行こうかなあと前の日、寝る前に考えます。食べることは、毎日の楽しみのひとつです。

―― 吉祥寺の食と語学勉強が生活の軸にある楳図さんですが、一方でテレビや映画の仕事なども忙しいのでは?
テレビに出るのは好きです(笑)。バオバブを見にマダガスカルへ行ったときは、樹液が目薬にもなると現地の人が言うので目に入れたり、なんでもやっちゃうんです。スタッフはハラハラしていましたけど。大嶺山の“西の覗き”という修行もテレビの仕事で体験しました。二人の山伏だけが足首を握って、絶壁で逆さにされて・・・あれは恐かった(笑)。
映画ももっとやって行きたいですね。今年公開される『神の左手 悪魔の右手』にも、ちらっと出演しているんです。あと、この映画と同じスタッフが制作した『希望の党☆』という選挙を促すためのドラマにも神様の役で出ています。今後はできれば自分で監督して、自分が主役で、そんなことをやりたいですね(笑)。
【処】街のあの人がお勧めするとっておきのスポットをご紹介!
ピッツェリア・ラ・コロンナ・サバティーニ
落ち着いたムードに溢れる店内で、イタリアンを心ゆくまで味わえます。
いつもの席に座り、まずは赤ワインと「海の幸の盛り合せ」(\1,575)を。
夜、ひとりでイタリアンを愉しみたい時に訪れるのが、東急百貨店の中にある、こちらの店。いつもの席に座り、窓の外の闇夜を走る電車を眺めて、「宮沢賢治の世界みたいでしょ?」と楳図さん。たいていはコース料理をオーダー。そして、「今日美味しいものは?」と尋ね、おすすめの赤ワインをいただくのだとか。
Menu
ミネストローネ ・・・ \945
トマトとアンチョビのピザ ・・・ \1,470
トマトとバジリコチーズのピザ ・・・ \1,470
海の幸のピザ ・・・ \1,680
コース料理
(前菜・パスタ・メイン・デザート・コーヒー)
・・・ \4,935
Pizzeria La Colonna Sabatini
住所 武蔵野市吉祥寺本町2-3-1
東急百貨店吉祥寺店9F [地図をみる]
電話番号 0422-28-1575
営業時間 11:00〜22:00(L.O 21:30)
交通手段 「吉祥寺」駅中央口から徒歩5分
街の案内人プロフィール
楳図 かずお  氏

▲ 自宅兼事務所にて。
グワシ!
1936年 和歌山県高野山生まれ、奈良県五条市育ち。

1955年  『森の兄妹』(中学二年生の時の作品)、 『別世界』が刊行され、高校三年生でプロデビューを果たす。

1962年 『ロマンスの薬』を発表。“ラブコメ”というジャンルの開拓者ともなる。一方で、『口が耳までさける時』、『へび少女』などを発表し、恐怖路線で脚光を浴びる。

1972年 『週刊少年サンデー』で『漂流教室』の連載をスタート。1975年には小学館漫画賞を受賞。

1976年 『まことちゃん』を発表。シュールなギャグが大ブレイクする。お馴染みの“グワシ!”はこの作品から誕生。

以後、多数の作品を生み出し、映像化された作品も多い。また、自らバンドを組み、音楽活動も広げつつ、テレビや映画の出演もこなし、現在に至る。

オフィシャルサイト:http://umezz.com/jp/
おにぎりからコロッケ、焼き魚まで揃うお気に入りの惣菜屋さん、「二丁目SOZAI」
香り高いコーヒーを飲みたいときは、こちら。賑やかなダイヤ街の中にある「カフェラミル」
事務所にほど近いので、昼夜問わず利用する、イタリアンの店、「クチーナ吉祥寺」
パンを買うならここ。吉祥寺駅南口からすぐのところにある、「ベーカリーショップ ルパ」
まちで声を掛けられることはしばしば。楳図さんは、吉祥寺のまちにすっかり馴染んでいる。
>>Vol.1「縁 〜記憶の風景〜」へ    


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